
上海に来ると、観光客が必ず食べに行くのがショーロンポー(小籠包)だろう。確かに、ショーロンポーは数少ない上海料理の中で、胸を張って「上海料理」と言えるメニューの一つだし、美味しい小籠包にであうと、幸せな気分になってしまう。ただ、「美味しい」と思える小籠包に上海で出会うのはなかなか難しい。
今や上海を飛び出して、日本の東京や大阪に出店している豫園の「南翔小籠包」に行く観光客が多いが、ここばかりに行くのも味気ない。おそらく、上海に滞在している人なら、一つや二つ自分好みの小籠包の店を持っていることだろう。
小籠包のルーツはどこか?という問題は、いつも議論が沸騰する。上海人からすれば、上海市郊外の南翔だとしたいところだが、実際には江南エリア一帯に様々な形式の小籠包が存在していて、決して上海の専売特許ではないようだ。ちなみに、筆者も兼ねてから小籠包の肉まん起源説を支持している。
ところで、数ある小籠包の中でも、南翔小籠包に匹敵する知名度を誇るのが、無錫の小籠包だ。味に対しては、好みの問題もあり異論が多いが、小籠包を語るのなら、無錫の小籠包を外すわけにはいかない。いや、ここは絶対食べてみる価値はありそうだ。
無錫の小籠包の歴史は古い。無錫の小籠包と言えば、「王興記」が非常に有名だが、創業したのは清代の1863年と言われている。無錫ではワンタンも有名だが、いずれもこの「王興記」に行って食べる人が多い。筆者ももちろん小籠包を食べに無錫まで数回行ってきた。老舗「王興記」は、分店が市内に数カ所あり、小籠包の街でもある無錫を感じさせる。(写真は上海豫園名物の「小籠包行列」)
小籠包の上にある、精巧に作られた20以上のヒダと、甘さに醤油の風味をきかせた絶妙のコンビネーションが人気だ。そして、美味しい黒酢に浸してでいただく。小籠包の薄い皮はしっかりと発酵され、口の中で滑るような感触が印象的。おみやげに持ち帰り用の小籠包もあり、家で蒸したり電子レンジにかけるだけで食べられるものも売られている。
一方で、上海の「南翔小籠包」の創業は1871年と言われている。上海市郊外の南翔で食堂を経営していた黄明賢さんが、その当時流行していた肉まんをヒントに、肉まんを小さくして、さらに皮を薄くし、餡を改良して作ったのが始まりとされている。大して年代に違いはないが、このように見る限り無錫の方が若干古い。
食べるときは、生姜酢で食べるのはどちらも一緒。小籠包をお酢にちょっとつけて、皮を口で少し破って中のスープを吸い出し、そして肉にかぶりつく。このスープの味が、小籠包のおいしさと地域の味に対する特徴を決定づけるといって過言ではないだろう。

無錫王興記の小籠包
無錫料理を一言で表わすなら、とにかく「甘い」。上海から今や新幹線で1時間ちょっとでいける無錫だが、ことに味に関しては上海と大きく異なる。上海はどち
らかといえば「鮮」と呼ばれるうまみを重視した味が多い。中国の北方人からすれば、上海も無錫同様にかなり甘い料理が多いと言われてしまうが、無錫は際だっている。(写真は無錫の王興記)
小籠包にしてもそうで、無錫の小籠包は甘党だ。また、小籠包の肉にしっかりと醤油が使われていて、人によっては、無錫の小籠包のほうが、中のスープにコクがあると思う人もいるかもしれない。そして、南翔小籠包と比較しても、無錫の小籠包のほうが明らかに大きい。筆者も、南翔の古猗園の小籠包を食べにいったことがあるが、下手したら無錫の小籠包の半分ぐらいの大きさである。
中国ではこの「甘さ」というのが、一種の「豊かさ」の象徴とされる時代があった。少なくとも、一昔前では上海でも「甘いもの」は高価なモノであった。
そういった意味では、無錫エリアは、上海に比べてずっと悠々とした生活を送っていたのかもしれない。いま無錫を訪れても、何となくのんびりした雰囲気を感じてしまう。

そんな無錫の小籠包を上海で食べることができないか?筆者もいろいろ調べてみたが、なぜか無錫風味の小籠包を食べられる店が上海に少ない。その中で、地元の人に人気があるのが、奉賢路にある「唐興記」(写真)。ちょうど南京西路の中信泰富広場の裏側に位置する。
外見はいたって普通の食堂だが、看板に「無錫」の字があるだけで、ちょっとワクワクしてしまう。
ここの名物は無錫の小吃で、小籠包以外にも、無錫風味のワンタンや、無錫醤排骨などもある。20人程度しか入れない小さな店だ。椅子がないときには、店内に置かれている丸椅子で急場をしのぐわけで、混んでいたら、合い席は当たりまえ。
興味深いのは、来る客のほぼ100%が小籠包を注文している。お昼や夜の食事時には、外に行列ができるぐらいにぎわう店だが、内装も普通で、下手したら見落としてしまう。でも、無錫の小籠包の味は健在だった。小籠包の中の汁も吸い出せるほど入っている。

上海奉賢路の「唐興記」の無錫小籠包
考えてみれば、小籠包はいろいろ奥が深い。それもそのはずで、家庭で作るのが面倒だけに、地元客の求める要求も髙い。小籠包は中国北方の餃子と違って、家で作るモノではない。もし、上海人の家庭で、小籠包を自宅で作るというようなところがあれば、その家庭はかなりの料理の達人とあるといっても過言ではないだろう。
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